「逃げろぉ!火事だ!!竜も襲撃してきているぞ!!」
屋敷に仕えている者達の怒声が響く。
その声をかき消すように勢いを増す炎の渦。
木造で出来た建造物は瞬く間に炎に食われ、瓦解していく。
桜花「お嬢様ッ!!…ッここを開けてください!!」
刻一刻と逃げ場が失われる屋敷の中で、桜花はアグネスが取り残されているであろう部屋の襖をこじ開けようとしていた。
桜花「アグネス様!」
ささくれだった木の破片が指にくい込み血が滲む。
__構うものか、構うものか!
お嬢様だけは、必ずお守りしなければ!
開かぬならと体当たりで無理やり道を開けた先、 部屋の中心で蹲るアグネスの姿がそこにはあった。
ひっ、ひっ、と引き攣るような呼吸に青ざめている顔色。
明らかに過呼吸を起こしているアグネスを落ち着かせるように、 祭りでかの人から貰ったぬいぐるみを抱かせ宥める。
桜花は彼女から話を聞いているため知っている、これは彼女にとって初めての襲来ではないということを。
過去に経験した惨事と重なって見えてしまっているのだろう。
いわゆる心的外傷の再体験症状。
桜花「大丈夫です、大丈夫ですからねアグネス様」
そうこうしてるうちにも、彼女たちがいる部屋にも煙が充満してきた。
桜花は自分の裾を切り裂き、煙を吸わぬようにとできた布をアグネスの口に当てさせる。
「早くここから逃げましょう」とアグネスの肩を抱いて桜花は立ち上がった。
__必ず、守り通してみせる。
あの方が、
月緋様さえ来てしまえば
きっと全て大丈夫だから。