夜の闇がせまる夕暮れ時。積み上げられた文書に全て目を通した屋敷の主は目の疲労を和らげるよう、瞼を閉じて天を仰ぐ。
空想上の生物だと語り継がれてきた"人喰い竜"の存在が初めて確認された日から早2週間
トランテスタ魔術学校襲撃事件を皮切りに、人喰い竜は不定期に集団で現れては襲撃を繰り返していた。世界各地を無差別で、だ。
ここセベロヴァスト大陸も例外ではない。
お陰様で朧帝国の経済や交易ともに大打撃。供給量がお互い足りなくなるのはもちろん、物資の質も落ちつつあった。
こうなってしまえば我先に物資を確保しようと各地の争いが激しくなるのは目に見える。
これから忙しくなるであろう。内紛でも国間の戦争でも、朧帝国の主戦力として優先的に駆り出されるのは月緋の率いる軍だからだ。
そしてまだ被害に遭っていないものの、この領もいつヤツらの脅威に晒されるかわからなかった。
月緋 「…一応約束は取り付けたが、如何ならむ…」
月緋は行燈に火を灯し独りごちた。
太陽がその姿を完全に隠したその時、部屋に入ってきた人物が一人。
「お疲れ様です、主」
彼のもっとも信頼する側近、睦月だ
今日は遅かったな、と言えば「とある逃走癖のある女に少し手こずってしまいまして」と返される
月緋 「御苦労。文書はそちらに全て纏めておいた。後はよろしく頼む」
立ち上がり部屋を後にしようとする月緋の背中に睦月は「昨夜は一晩中どちらに行かれていたんですか?」と疑問を投げかけた
その問いに月緋は足を止めれば「なんだ、起きていたのか?」と目を細める
えぇ、まぁ…という曖昧な返答
月緋 「旧知に会いに行っただけだ」
彼はそう答えると今度こそその場を去った