緋の章 第6話
- 主催
- 2024年9月21日
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雄大な山々がそびえ立ち、清冽な風が吹き降りてくる。
その山脈を背にし、重厚な木造建ての城が佇んでいた。
ここは朧帝国の中央寄りに位置する、月緋が治めている暁龍(かつかみ)領。
城の頂上からは一望できる眺めは壮観で、眼下に広がる城下町が美しく広がっていた。
堅牢に築かれた城の石垣。古びた色合いを纏っている屋根瓦。
城門には厳かな門扉があり、そこをくぐれば城内への入り口へと続く参道が続いている。
この城はただの建造物などではない。
月緋に仕える家臣や兵、武士が集い、軍議や鍛錬などを行う重要な場所だ。
城の中庭に設けられた鍛錬場では刀の音が響き渡り、竜兵舎では闘争心渦巻く竜共の唸り声が轟いていた。
アグネス 「で、なんで私をこんなところに連れてきたわけ?」
無駄に幅広い廊下を歩き、明らかに自分より目上であろう見知らぬ人々とすれ違う度に頭を下げられる。
正確にはアグネスにではなく、目の前を歩いている月緋にだが。
月緋 「日しきりに屋敷にいては退屈だろう」
そう言う月緋は歩みを止めない。
どういう心情でそう言っているのか読めず、「何、私のことを思って?」と冗談交じりに問うアグネス。
しかし、軽く振り返り月緋が呆気からんと放ったのは「そうだが?」という肯定の答え。
不意をつかれアグネスは赤面し黙ってしまった。
付き添いとして来ていた桜花もその光景を目前にしてつられて赤くなる。
構わず進んでいく月緋に置いてかれないよう、その後ろをついていくアグネス。
月緋 「お前が閑そうにしていたから気遣ってやったんだ。感謝しろ」
アグネス 「その一言がなかったら素直に感謝していたでしょうね」
などという応酬をしていれば、前から来た人物が月緋に話しかけた。
雷火 「月緋様、お疲れ様です」
月緋 「雷火か」
雷火 「そちらの方は…」
雷火 「お初にお目にかかります。私、月緋様の家臣、雷火と申します」
アグネスを見るやいなや雷火と名乗る彼は恭しく頭を下げた。
月緋より背が低く、女と見紛う幼さのある顔。
黒い一角としなやかな尾を持つ彼は竜人なのだろう。
相手の丁寧な挨拶を受け、アグネスも名乗ると雷火は
「存じていますよ、アグネス様」とあどけなさを感じる笑みを見せた。
ここに来てから初めて敬意を込めて名を呼ばれ、思わずアグネスも口元がほころぶ。
月緋 「して、雷火よ。如何なる要件でここへ」
雷火 「は!烈火山脈開拓の件で進展があったのでご報告に参りました。こちらにまとめているのでご確認ください」
渡された書類を受け取りさっと目を通すと「ご苦労。後でしかと確認する」と雷火を労う月緋。
見間違いか、雷火の尻尾がわずかに揺れているような…
月緋 「ところで霧雨を見なかったか?彼奴も今日ここに来ているはずだが…」
雷火 「まだ来ていないようです」
月緋 「ヤツめ…また女遊びに惚けてるのではあるまいな」
雷火 「俺が呼びに行きましょうか?」
月緋 「よい。代わりといってはなんだが、此奴に城の案内をしてやってくれ。俺は他にやるべき事があるのでな。」
月緋がアグネスを顎で指し、雷火は「承知しました」とはつらつと答える。
やはり見間違いではないらしい、彼は先程よりも尻尾を振っていた。
その姿が飼い主大好きな犬に見えるのはきっとアグネスだけではないのだろう。
雷火 「改めて、よろしくお願いしますアグネス様」
人懐っこい笑みを見せる雷火にアグネスの警戒心はとっくに薄れていたらしい。
こちらこそよろしく、と返すアグネス。
その後ろでぺこりと会釈する桜花に気付き 「桜花もお疲れ様、アグネス様の専属なんだってな。桜花になら安心して任せられる。」と彼女にも声をかけた。
雷火に話しかけられ、どもりながらも「ありがとうございます」とまたお辞儀をしようとしたその時
「月緋様!急ぎの知らせです!」
三人の横を早足で通り過ぎ、まだ遠くに行っていない月緋に声をかける人が現れた。
相手の報告を聞く月緋が眉をひそめる様子に、周囲がザワつく。
しばらく話し込んだかと思うと、月緋が顔を上げ声を張った。
月緋 「皆の者、隊を整え装備を集めろ
__戦の準備だ」